法政委員コラム株式会社博報堂DYホールディングス
 グループ法務室長 増田 浩

今年に入って毎日のように出社することになった。コロナが下火になったからだけでなく、仕事の関係で対面での会議等が増えたためだ。思えばコロナがはじまった2020年当初、営業現場相手の法務室の仕事は対面でのコミュニケーションを中心に活動してきたため、リモートワークは難しいと考えていた。そのため、法務室のリモートワークは後れを取った感があるが、会社が推進する働き方改革の一環でもあり、実際にリモートワークを始めて見ると十分に機能することが分かった。結果、比較的長い間、私自身もベストプレイスとして自宅での勤務を続けてきたのであるが、冒頭に書いた通り、最近は毎日のように出社している。ある日の朝の通勤途中に困ったことが起こった。齢を重ね、定年間近のせいか、ぎっくり腰が勃発したのである。私は地下鉄で通勤しているのだが、基本的には最寄り駅で座るようにしている。その日も座っていたのだが、降車駅で降りようとしたら突然、腰に痛みが出て、立ち上がるまでに時間がかかり、降りる頃には扉が閉まってしまった。それならばと、翌日、腰の痛みに耐えつつ電車内で立っていたのだが、混んだ車内で押され、また、降車する際に声掛がけしても、周囲の方は男女を問わずだれも手助けしてくれないし、また、他人のことには無関心で我先に電車を降りようとして私を突き飛ばす輩までいることに驚かされた。

上記の小さな経験を通じ自分の健康を損なって初めて周囲の無関心さに気が付いた。勿論、それまでの自身の日常を振り返れば自分も間違いなく傍観者の一部であったであろうと思う。多分、自分のことで頭がいっぱいで通勤時の混んだ社内で弱そうに立っている人がよろよろしていても誰一人として関心を払ってくれないのであろう。人権やジェンダーの問題を考えるとき、仕事柄、様々な冊子や専門家のセミナーを通じ、理論的には無関心さの誤りについてわかった気がしていたように思う。ただ、理解していても「自分事化」できていなければ相手方が抱える悩みや・気持ちをきちんと理解したことにはならないということが実体験を通じてよくわかった。まずは、自分に直接関係しないことでも積極的に関心を持ち、必要に応じてコミュニケーションを図ることが重要なのだと思う。相手の立場を理解した「自分事化」ができていれば、求められる行動(求められない行動を含む)が実践できるのではないかと考える。人権やジェンダーの問題を考えるうえでも個々人の相手方に対する想像力や配慮、優しさ等をもって自分事化を図ることが基本的な必要事項なのだということが、今回の経験を通じて認識できたと思う。

以上、通勤途中の体験から思いつくまま本コラムを執筆させていただいたが、ぎっくり腰は快方に向かっており、趣味のゴルフで再発しないことを祈って今日この頃を過ごしている。

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