1年の計は元旦にあり
メディア事業本部コンテンツ審査部長
多胡 有人
1月1日の新聞紙面は、1年のスタートに当たって新聞社からのメッセージがこめられている。この1年を考える上で、参考になる、示唆に富む記事が多く、毎年、各紙を購入して読み比べている。今年気になったテーマは「2040年の日本社会」である。毎日新聞は1面で、元総務相の「増田リポート」から10年を機に、増田寛也さんにインタビューした。2010年から2040年までの30年で人口が半分以下に減る都市を消滅可能性都市として、10年前に896自治体と試算したが、今は1000超に拡大しているとのことだった。当社の1面は2040年に現役世代が今の8割に減ることに着目し、「8がけ社会」を提示した。複数日にわたる連載で、その問いに向き合い、専門家の力も借りながら解決を探る糸口を示す内容である。1日の初回は、「献灯使」の著者である多和田葉子さんにインタビューした記事を展開した。2040年は今から17年後のことである。何もしなければ、3割が空き家、築50年以上の道路・橋が75%、地方公務員が減り約8割しか確保出来ず行政サービスが難しい、・・・という状況が待ち構えている。
多和田葉子さんは、当社の朝刊小説で「白鶴亮翅」を連載しており、連載当時、新聞をめくるのを楽しみにしていた。「白鶴亮翅」は太極拳の型の一つで、24式では3式の名前である。その影響というと言いすぎになるが、昨年1月から私も本格的に太極拳を学び始めた。内家拳の一つでもある太極拳は、陳式、楊式、呉式、孫式、武式などさまざまな門派がある。私は、自身の健康を考え、自分のペースで自分と向き合うことのできる楊名時太極拳を選んだ。門派ごとに套路など異なる部分はあるが優劣はない。王宗岳の著述といわれ、「太極者 無極而生 動静之機 陰陽之母也 動之則分 静之則合 無過不及 随曲就伸」で始まる「太極拳経」に極意が伝えられている。楊名時太極拳は「立禅」で自分の内面・心・呼吸・姿勢を整えたのちに、その状態を保ちながら、八段錦、24式を行う。「立禅」で整えた状態、虚領頂勁、立身中正を保ち、虚実を入れ替えながら、拙力を省き肩や股関節をゆるめ、主宰於腰、源動腰脊、ゆっくりと意を用いて体を動かすことは難しい。毎日少しずつ太極拳の動きを行っている。1年続けると「初伝」を授かり「行之苟有恒 久久自芬芳」を送っていただいた。崔子玉の座右銘の五言二十句の最後の二句である。楊名時先生のお好きな言葉をお送りいただき大変ありがたい。私の今年1年のテーマに、崔子玉の座右銘の五言二十句を心がけることを選んだ。
「8がけ社会」を考えるうえで、当社の1日付1面の多和田葉子さんのインタビュー記事を読む。「長く生きていく中で大事なのは、満足を感じられるかどうか。これからは自分が他の人に与えながら満足できるかが大切になってくる」とし、厳しい現実に硬直しそうな思考を前に進める鍵は「言葉」が握る、と言う。「どんな未来になったら幸せか。表現する言葉の中に喜びがなきゃだめ。想像できないなら、その未来をつくれる可能性も少ないわけですから」と記事は伝える。
2024年1月16日、当委員会で「Well-being」の勉強が始まった。これまで国連で設定したMDGs、SDGsは複数の目標設定型(MDGsは8つの目標、SDGsは17の目標)であったが、「Well-being」は「パーパス経営」の「パーパス」と同様に、目指したい姿・状態であり、2030年目標のSDGsを内包しうるもので、「Well-being」とは、「身体的・精神的・社会的に満たされた状態」、「自分らしく豊かさを実感できる社会」との説明を受けた。測定できないと達成度を図れないとして、主観的なWell-beingについて測る尺度をつくり、毎年、GDW(Gross Domestic Well-being)との名称で測定していきたいとのことだった。2040年に何もしなければ起こるであろうことに対し必要な「言葉」は「Well-being」を考えることの中に見つけられるかもしれない。2040年の日本社会の「Well-being」、2040年の「自分らしく豊かさを実感できる社会」を表す「言葉」を見つけて目標に掲げ、毎年、2040年の「Well-being」の達成度を測ってもよいのではないだろうか。
2040年の「8がけ社会」は、3人に1人が65歳以上の社会でもある。2040年私も65歳以上の一員である。そのとき私は、現在の社会の中の位置づけとは違った存在である。私自身としては、2040年に向けて、当社1日紙面の多和田葉子さんの言葉にある「満足」「幸せ」「喜び」をキーワードに、崔子玉の座右銘の三・四句「施人慎勿念 受施慎勿忘」を実践し、座右銘の五言二十句とともに歩みを進め、2040年に「行之苟有恒 久久自芬芳」でありたいと思った。