ジェンダー課題チャートとは
「ジェンダー課題チャート」とは、2022年の国際女性デーに電通ダイバーシティ・ラボ※1 が発表した、ジェンダー・ギャップ解消に向けたアイデア発想支援ツールです。こちらのリリースから、どなたでも無料でダウンロードしていただけます。
チャートには12テーマ95個の課題と、その課題を客観的に裏付ける調査データのファクトを紐づけて記載しており、女性がさまざまなライフステージで直面する問題をあらゆる角度から紐解く内容になっています。
扱う12のテーマは「健康」「お金」「仕事」「美容」「妊娠・出産」「教育」「生活基盤」「家族」「結婚」「意思疎通」「介護」「育児」です。
“女性の課題”としてよく挙げられる「育児・介護と仕事の両立」などに限定せず、「お金」や「教育」など、見落とされがちな課題にも光を当てることを意識して制作しました。
構造的なジェンダーギャップへの気づきを促す
テーマごとに課題を見ていただくと、多くの課題は1つのテーマだけで語りきれるものではなく、複数のテーマにまたがり相関関係を持っていることがわかっていただけると思います。例えば、本チャート上において女性の生理※2 にまつわる課題は「仕事」「健康」「お金」の3テーマに出現します。
月経による不調は多くの女性が抱える日常的な生活課題です。しかし、こうした状況を正しく把握している人は果たしてどれくらいいるでしょうか。
「仕事」という切り口から見ると、生理は業務の生産性を著しく低下させる可能性があるのにも関わらず、その状況を職場に伝えることができないケースが多いため、不調を抑え込んだまま働く女性の姿が浮かび上がります。生理は我慢するものという社会的な通念がまだまだ根強く、女性にとって大きな負担・プレッシャーとなっていることが分かります。
さらにお金の面から見ると、生理用品を買うことすら苦労している若者が多くいるというショッキングなデータもあります。生理用品はまごうことなき生活必需品ですが、2023年9月現在日本では生理用品は8%の消費税軽減税率の対象外となっています。国会議員の女性比率が低く、女性の声が社会制度・政策に反映されないことが、「生理の貧困」問題の解決を阻む要因の一つだと考えると、「生理」の関連課題として「政治」までも影響してくることが分かります。
このように、さまざまな切り口で俯瞰的に課題を捉えることで、構造的な性差別やジェンダーギャップに気づくことができるのも、「ジェンダー課題チャート」の特徴です。
広告表現のジェンダーギャップ解消に向けて
構造的なジェンダーギャップに気づき課題の理解を深めることは、広告表現の制作やマーケティング施策における新たな視点の獲得にもつながると考えています。ぜひ「ジェンダー課題チャート」を、皆様の広告表現チェックや課題解決に向けたアイディエーションなどにも、積極的にお使いいただければと思っています。
以下は、議論ポイントとなるいくつかの視点の一例です。
女性は家事、男性は仕事。会社の重役は男性、女性はアシスタント。 そうした社会的規範が多くの女性を苦しめ、そして男性にとっても大きな社会的プレッシャーになっていることを知っているのであれば、そのようなステレオタイプを強化する表現は避けましょう。
“女性だけが辛いわけではない”。“女性だけでなく、全ての人が生きやすい社会へ”。 いずれも大事な視点ではありますが、女性の課題を解決することで実現できることを認識し、明らかになっているジェンダーギャップを解決するためのアイディアも求められています。
表面的に課題をなぞるだけでは、当事者の共感を得られないだけでなく、反発を招いてしまうこともあります。構造的な問題にも理解を示しつつ、複雑なインサイトやニーズを丁寧に掬い取ることで、炎上のリスクを下げることができると考えます。
ジェンダー課題はチャート上の相関関係からも分かる通り、さまざまな社会構造と密接につながっており、そのどれもが「女性だけ」で解決できるものではありません。女性の側にのみある問題とせず、社会とのかかわりで生まれている問題として向き合う必要があります。
ジェンダー問題への取り組みは、投資家や生活者を含めあらゆるステークホルダーが企業に求める基本姿勢です。だからこそ、ジェンダー問題の深い理解のもと、「宣言」だけではない、当事者が真に求めているサポートへの「具体的な行動」まで考え、実行することが大事になっています。
ジェンダー問題への取り組みは、投資家や生活者を含めあらゆるステークホルダーが企業に求める基本姿勢です。だからこそ、ジェンダー問題の深い理解のもと、「宣言」だけではない、当事者が真に求めているサポートへの「具体的な行動」まで考え、実行することが大事になっています。
多くの人の目に触れる広告表現には、本質的な課題の理解が求められる
昨今、DEIにまつわる企業の取り組みが活発に行われるようになり、必然的にダイバーシティやジェンダーギャップ問題に触れる広告コミュニケーションも増えつつあります。しかし、せっかくジェンダー問題に取り組んだにも関わらず、性差別的な表現をしてしまったり、ジェンダーステレオタイプの再生産・強化に意図せず加担してしまったりして、ネガティブな印象形成に転じてしまう例も散見されます。広告制作に携わる皆様、プロダクトやサービスを開発する企業の皆様には、このチャートを活用していただくことで、ジェンダー問題への表層的・部分的理解を脱し、俯瞰的・本質的な理解を深めていただくきっかけにしていただければと考えています。
以上- ※1 [^] ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン課題に対する各種研究・開発、人材育成、ソリューション提供、情報発信を行う、電通グループの組織横断型ビジネスタスクフォース
- ※2 [^] 「生理」「月経」の表記は、チャート作成時のデータに紐づいており、本文章内では同義の言葉として記載しています。
- ※3 [^] 厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)
- ※4 [^] 東晶貿易『キャリア転職センター』「生理休暇の実態に関する市場調査」(2021年)
- ※5 [^] 日経BP総合研究所・生理快適プロジェクト「働く女性1956人の生理の悩みと仕事と生活調査」(2021年)
- ※6 [^] 任意団体 #みんなの生理「日本の若者の生理に関するアンケート調査」(2021年)