TAAサロン あの人にきく

田中 巌夫 さん
社会課題に取り組み、
社会とともに成長していく企業を目指して。
キリンビール株式会社
マーケティング本部
マーケティング部企画担当 主幹

秋葉 航 さん
プロフィール 神奈川県出身。2001年、キリンビバレッジに入社、量販店の営業を担当。2005年、キリンビバレッジ広域営業部、コンビニエンスストア営業を担当。2011年、キリンビバレッジマーケティング部、メディア業務(テレビを中心に担当し、2015年からリーダー職)。2019年、キリンビバレッジ CVS営業部にて営業取りまとめ。2023年、キリンビールマーケティング部、メディア業務ほか管掌。2024年よりキリンホールディングスマーケティング戦略部、グループメディア統括を兼務。

17年ぶりのスタンダードビール「キリンビール 晴れ風」の登場に込めた想い

……秋葉さんは20年以上、キリンビバレッジにお勤めだったのですね。

就職した2001年当時、ビールとビバレッジは別々に採用をしており(現在はどちらもキリンホールディングスの傘下)、私はビバレッジに入社し、昨年からキリンビールでの業務に従事しています。ビバレッジ時代にはコンビニエンスストアの営業を長く担当しました。初めて自分が提案をして商談を進めた商品が、実際にコンビニの棚に並んだのを見た時の気持ちは今も忘れることはありません。自分が担当した商品を全国のお客様に届けることができるのだという喜びと同時に、大きな責任も感じました。一品・一販促の採用が全国への影響があるということは、それだけ逃すと損失も大きいわけですね。そうならないよう、新商品が出るたびに、どうしたらより多くのお客様に手にとってもらえるかを第一に考えながら、"店頭にどんな棚を作らせていただくか"を、コンビニの担当の方々と一緒に話し合いを重ねていました。

キリンビールでの仕事は取り扱う商品がアルコールなので、アプローチする世代が20歳以上となります。お客様と末永くお酒を通じたコミュニケーションをとっていくためにも、対象をしっかりと区切ってそこにきちんとメッセージを届けるということを意識しながら、新たな領域の勉強を続けているところです。

……今年の4月に、17年ぶりに発売したスタンダードビールの新商品「キリンビール 晴れ風」が好調だそうですね。

昨年10月の酒税法改正もあり、スタンダードビールのラインナップを広げて、お客様の選択肢をより広げられないだろうかと考えました。2026年にはさらなる酒税法改正も予定されていることも視野に入れています。

「晴れ風」の味については"ビール特有の苦味も活かしながら、すっきり飲んでいただける味わい"を目指して、ビールならではのコクと、飲みやすさやキレの良さの両立をかなり意識して作りました。また、入社5年目の醸造家スタッフが開発の中心を担っております。そのように、若い世代の感性も入れながら、キリンビールとしても新たなチャレンジをしているところです。おかげさまで、昨今の"ビール離れしている若者"といわれるような世代のお客様にも、かなり手を取っていただいている実感がありますので、そのような部分でも今回の狙いが功を奏しているのではないかと感じています。

……美味しさの追求に加えて「晴れ風ACTION」も大きな特徴で、話題になっていますね。どのような取り組みなのか、具体的に教えていただけますか。

私たちキリングループは「CSV」を経営の大きな柱に据えております。(Creating Shared Valueの略、共通価値の創造。社会的ニーズや社会問題の解決に取り組むことで社会的価値の創出と経済的価値の創出を実現し、成長の次なる推進力にしていくこと。)
社会的課題を解決することと、我々としての経済的価値を両立させること、ということで、ビール事業では何ができるかを考えてきました。また、今の若者はすでに小学生の頃からSDGsを学んできている世代です。ビールの味だけではなくCSV的な観点も商品の柱にすえることで、お客様に手にとっていただく意義のようなものを作ることができるのではないか、と考えてスタートしたのが「晴れ風ACTION」の取り組みです。

具体的には「晴れ風」の購入を通して日本の風物詩の保全や継承を支援する、というもので、「晴れ風」をご購入いただくと、350ml・1缶につき0.5円、500ml・1缶につき0.8円が寄付される仕組みになっています。また、缶に印字されている二次元コードから専用サイトにアクセスすると、1日1回0.5円分の"晴れ風コイン"が付与され、ご自身が応援したい自治体を選んで寄付することもできます。第一弾では、全国の桜の保全活動への取組みを行い、おかげさまで、予定していた目標金額を達成することもできました。続く第二弾は全国の花火大会の支援活動として、7月にスタートしています。

お花見や花火大会は、昔からビールと一緒に楽しんでいただいている日本の風物詩ですが、近年では自治体の経済的環境や少子高齢化、気候変動などによって保全や継承ができず、存続が難しくなってきている地域もあると聞きます。そこで、ビールを作っている私たちとしては"ビールからの恩返し"という気持ちで、そのような風物詩の未来につなげていくために、そしてその傍らには我々の商品を置いていただけるような、そんな環境を実現するためにも、我々がやる意義があるのではないかと考えています。

第一弾の桜への支援では、二次元コードからサイトに入ったときに、ご購入者がご自分の出身地域を探して、あ、ここにも支援ができるんだ、ということで選んでいただいたり、共感してくださったりということもあったようでした。そういった様子からも、販売の状況も好調だということを含めて、非常に手応えを感じているところです。

私たちが、いわゆるCSR(=Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)ではなく、CSVを経営の根本においているのは、社会的貢献や奉仕の精神だけではなく、経済的価値を生んで社会とともに持続的な成長を続けていきたいという思いがあるからです。

社会的課題の解決と、企業の成長の両立を目指していく。そのために、解決するべき社会課題を特定し、具体的なアクションプランを定めて、グループ全体で取り組んでいます。つまり、一つの商品のプロモーション・営業活動として短期的に終わるようなものではなく、腰を据えて企業として長く続けていこう、という思いで取り組んでいるものです。

酒造メーカーとしての責任を果たすための取り組み

……キリンビールでは、以前から適正飲酒の啓発などの活動も続けていらっしゃいます。改めてこの活動の意義、現状などを教えてください。

私たちがご提供するお酒というものは、お客様の日々の豊かな生活に貢献している一方で、一部では健康を損なうような影響を与えうることも事実です。キリングループでは、長くお客様にお酒を楽しんでいただくために、お酒を取り扱う企業の社会的責任として、アルコールの有害摂取根絶に向けた取り組みを行っています。

たとえば成人式など、20歳を祝う式典での適正飲酒啓発活動があります。本社のある地元・中野区の成人式にお伺いして、キリンオリジナルアルコールパッチテスト付きの啓発リーフレットを配布し、ご自身のアルコール分解体質をまず知っていただくようにしたり、お取引のある企業様の社内セミナーなどでお話させていただくこともあります。また、20歳を迎えた大学生の方に向けて、全国大学生協共済生活協同組合連合会との共同取り組みとして、適正飲酒の啓発セミナーを行っています。成人するとともにお酒に対する正しい知識を身につけて、適正な飲み方で楽しんでいただきたいと思いますね。

……コロナ禍の時と比べて、ご出社や会食の機会も徐々に増えてきていると思いますが、オフの日はどのように過ごしていらっしゃいますか?

もっぱら子育てといいますか、小学生の娘の自転車の練習や水泳の練習に立ち会って、自分も体を動かしたりしています。練習しながら少しずつ上達していくのを見ると嬉しい気持ちになりますし、それが自分にとってもプラスに働いているように思えます。娘とは一緒にプロ野球やサッカーなどのスポーツ観戦をすることも多いです。私が横浜の出身で、スポーツ観戦が好きだということで、その影響を受けて娘は既に横浜DeNAベイスターズが大好きになっています(笑)。じつは私は社内結婚で、妻は今も同じグループ内で働いていますので、家事も役割分担をしながらやっています。料理はちょっと苦手で、台所ではもっぱら洗い物担当ですが…(笑)。余談ですが、社内では子育てが一段落して会社に戻ってきてくれている女性も多いですよ。

……最後に、広告の仕事に関わっている若い方々にメッセージをお願いします。

私からは二つのことをお伝えしたいと思います。 まず一つは、"自分の専門分野だけでなく、それ以外のところにも常にアンテナを張る"ということです。これだけメディア環境も含めてめまぐるしく状況が変わっていくなかで、お客様の傾向も変わってきています。そのため、どれだけ外に自分の目を広げることができるか、そしてそれをどう自分にインプットできるか、というところが大事になってくると思います。たとえば自分の担当がコンビニ領域の営業であっても、コンビニだけを見るのではなく、EC(=ネット販売)はどうなっているのか、ドラッグストアではどうか、など、他の業態にも目を向けるということですね。コンビニで買い物をされるお客様は、当然、コンビニだけでなく、ECやドラッグストアも使われるわけですから、生活者の視点で見ていくことで視野が広がるはずです。

もう一つは、"自分が生活者でありお客様であるという視点を常に持つこと"です。特にメーカーである我々の立場からは、ともすればメッセージが一方的になりがちです。実際のお客様が日々、どのようなメディアでどのようなメッセージに触れているのかということを、自分がその立場になって考えることが大事です。これは私の部署のメンバーにも、そして自分自身にもよく言いきかせていることですが、自分を生活者として捉えた時に、今のこの展開ってどうなんだろう?というところを意識するのが必要ではないかということです。一つ目の"専門分野以外にも目を向ける"ことにも通じていますが、お客様は今やテレビだけでなくウェブサイトやYouTubeにもアプローチしているはずだ。じゃあYouTubeとテレビの掛け合わせってどうなっているんだ、とか、そういうところに視点を広げていく。それは生活者の立場からすると当たり前のことなのですが、私たちの立場になるとなかなかできていないのではないか。それはうちのメンバーも含めて、やはり思い当たるところがあるので、生活者起点ということを忘れずに、視点や考え方を広げていくことを意識していければと思いますね。

(インタビュー・文 牧野容子)

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