アップデート
寺林 憲宏
11月の末になると、「Black Friday」の文字が目に付くようになる。黒字の背景に黄色の文字が多いのでよく目立つが、このイベントが日本にもこんなに定着したのはいつからだろうか。大手量販店や大手通販事業者を始めとして、あちこちで目にするようになっている。
ちょっと前まではテレビの海外ニュースを通して、こんなセールがあるんだと、視聴者目線で見ていたような気がするが、いつの間にやら、自分が参加する側になっている。もちろん深夜に店舗の前に行列を作ることはないが、早ければ10月末頃から、欲しいものがあってもとりあえず待って、どれぐらい安くなるかな、と頭を巡らせるようになっている。
ということで狙っていたと思っていた商品がどのくらい安くなっているかと、あちこち(店頭や画面に)目を凝らすのだが、セールだから当然、「何円のものがいくらになる」や「何%OFF」という文字があちこちに踊っている。いわゆる二重価格表示だ。
法務セクションに所属して、仕事として日頃広告法務の相談を受けている人間の性なのか、無意識に「これはメーカー小売価格」かな、とか、「過去の販売価格」かな、とつい考えてしまう。どんな職業の人にも何かしらあるのだろうが、ささやかな職業病みたいなものかもしれない。
もちろんこれが購買に影響を与えることはないし、単に趣味的で興味本位なものでしかないのだが、他にも、ついついCMを見て、どんな権利処理してるのかな、と気になってみたり、家族と買い物に行った先で「今なら1万円買うと、これがもらえる」などと言われようなものなら、総付景品で1万円だから、マックス2,000円か、などと頭の中でつい計算してしまい、広告や企画の裏側に思いを馳せてしまう。ところが、最近では、そうやって気になるポイント(というかトレンドといってもいいかもしれない)が、前と違ってきていて、何より、どうも多岐にわたっているというか、複雑になってきているように改めて思う。
先の例に出たようなプレミアムキャンペーンの仕組みついては、そんなに気にならないなった(しなくなった)。その代わりに、人物の関係性や描き方に、やたら目が行くようになったように思う。ちょっと前までであれば、男女の役割的なところに目がいきがちだったが、この頃はそれだけではない。 単に表現の相談を受けている人間でもこうなのだから、実際に広告を世の中に提供している広告主の方々や、制作に携わっている方々の頭の悩ませようは、いかほどだろうか。商品にはターゲットの性別、年代が当然あるだろうが、その性別(年代)の人だけ登場させればいいわけではなく、カップルといえば性別の組み合わせは当然一つではなく、家族の構成も文化的な背景も千差万別とくれば・・・。
広告というものは、リーチしたいターゲットがいる以上、万人に刺さる表現は極めて困難であろうし、それは当たり障りのない(誰にも刺さらない)広告になってしまうかもしれない。しかし、そのこととは別に、広告は誰かに不快感や違和感を抱かせるものではあってはならないという命題も、同時に併せ持っており。
ちなみに極めて私事で恐縮だが、今年は個人的に自宅のPCに増設するSSDが安くなっていないか、あちこち探しまわっていた。PCに若干の興味をお持ちの方であればご存じだろうが、SSDとはハードディスクと同じようで、それよりも高速な記憶媒体のことだ。思えば小学生のはるか昔に私がPCに初めて触れた時代の記録媒体はカセットテープだった。そこからフロッピーディスクとなり(クイックディスクなんていう変わり種もあった)、ハードディスクが登場し、CD-R、DVD-R、そしてSSDと進化していった。あの頃の自分からすると、想像もつかないような世界だが、PCも自分の知識もアップデートしてきた。広告も同じことだと思う。広告は時代を切り取るものだし、時代を先取りしなければならないものでもある。自分自身もどんどん感性をアップデートして、取り残されないようにと考えている次第である。