法政委員コラム

若葉マークの息子と、
アルゴリズムによる"共感"

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柳澤 伸司

今月上旬の週末、免許を取ったばかりの二十歳の息子が「運転して行ってみたい」と言い出した。目的地は片道130キロ先のサッカースタジアム。

「本当に運転するのか?」と念のため聞くと、息子は少し緊張した顔で「うん、練習もしたし」とハンドルを握る覚悟を決めていた。

彼が十歳の頃から一緒に応援してきたチームのリーグ戦があり、我々のチームは下位リーグ降格の瀬戸際。相手は優勝がかかった強豪。行きの道中、スマホのナビで知らない土地に苦戦しながら彼が運転しているクルマの助手席で、私はこの十年間を振り返り感慨にふけっていた。これは"記憶に残る試合"になるはずだった。

結果は、相手チームの勝利。我々のチームは無情にも敗れた。息子と私は、席を立つタイミングも同じく、深いため息をつきながらスタジアムを後にした。

帰りの車内。試合の反省もそこそこに、ふたりとも落ち込みムード。そこに追い打ちをかけるように渋滞にはまり、車はほとんど動かなくなった。

「音楽でもかけるか」と息子が言い、スマホの音楽アプリからランダム再生を始めた。すると、流れてくる曲が不思議と私の知っているものばかりだ。

「お、これ知ってるぞ。懐かしいな」そう言うと息子が意外そうにこちらを見た。

「最近さ、アプリが昔の洋楽をよく勧めてくるんだよ。気に入っててさ。たとえば……」

息子が挙げたアーティスト名を聞いた瞬間、思わず声が出た。
 「えっ、〇〇なんて、もうすぐ引退するアーティストだよ。なんで知ってるの!?」

驚いた私に、息子は「そんな反応する?」と言いたげな顔をしている。

そのアーティストこそ、私が中学生の頃、初めて買ったLPレコードのアーティスト。来日ライブにも何度も足を運んだし、アリーナ会場で握手までした"私の一押し"だった。昨年、最後の来日公演があった。

だが、息子にそんな話をしたことは一度もない。というより音楽の話自体ほとんどしたことがなかった。

「アプリのリコメンドって、けっこう精度高いよな」と息子は何気なく言う。

たしかに、すごい。まるで見えない糸が父と息子の趣味をつないだようで、渋滞の車内が少しだけ明るくなった気がした。

私はインターネット広告の仕事に携わっている。日々、ターゲティングの議論や批判に向き合いながら、「本当にユーザーにとって良い体験を生むのか?」と考えることも多い。だが、この日の出来事は、そんな私に小さな希望をくれた。データ活用がしっかりと機能すれば、こんな偶然のような素敵な出会いも生まれるのだ。息子と同じ音楽を、同じタイミングで楽しめる。そんな体験をもたらす技術は、決して悪いものではない。

負け試合の帰り道は苦い。しかし、そんな道中だからこそ、思いがけない親子の共通点が見つかったのかもしれない。これからも、彼のドライブに付き合いながら、またどこかで新しい発見があることを期待している。

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