広告審査担当の小悩み
ライツ・メディアビジネス本部
メディアビジネス部 副部長
冨田 美緒
私の今の仕事は広告審査です。いただいた広告原稿が法令に抵触していないか、当社のガイドラインに即しているか、業界のガイドラインを逸脱していないか、掲載前に確認し、必要であれば修正をお願いするという作業を日々行っています。
ここから先はちょっとマニアックな話になりますが、日ごろ感じていることを書かせていただこうと思います。よろしければお付き合いください。
広告審査にかかわる法令の二大巨頭は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、薬機法)と景品表示法です。もちろん、他にも知っておくべき法令は多々ありますが、広告審査の仕事を始めるにあたり、最初に資料を読み込む必要があるのは、この二つ。そして必須アイテムの巨頭たちは、なかなかに難しい法令でもあるのです。
化粧品やサプリメントの広告を見て、「これを使うと(摂取すると)なんの役に立つの?」と思うことはありませんか。一般の化粧品や機能性表示食品などではないサプリメント類は、薬機法で効果効能の訴求は禁じられているので、「それで?」という広告表現にならざるを得ないのです。
雑誌の役割は読者が知りたいことをわかりやすく伝えることです。けれど広告では、その「知りたいこと」が法令に抵触してしまうケースが出てきます。読者には欲しい情報なのだけど、と思いながらも修正をお願いする赤字を入れます。薬機法は「言えること」「言えないこと」が比較的はっきりしているので、作業としては迷う要素は少ないのですが、それでも「読者は知りたいよなあ」が頭をよぎります。「このお高い美容液を使うと、どんないいことがあるのか。今の私に必要なものなのか。言えないのはわかっていても、説明があると親切なのに」少し残念な気持ちを抱えながら直しが必要な根拠を書き込む毎日なのです。
そして個人的に、より悩ましいのは景品表示法です。「これは表現の範囲でよくない? 赤字を入れるようなもの?」と躊躇することはよくあります。たとえば原稿に「麺ひとすじ50年。老舗がたどりついた極上の味をお楽しみください」といったキャッチコピーがあったとします。「極上」は最上級表現なので、極上と言える根拠を注釈で入れてもらう必要があります。消費者庁のサイトの「表示に関するQ&A」によると、〈一般的に、「特選(撰)」、「極上」といった用語は、商品に使用されている原材料の品質、製造方法が同種の商品に比べて優れている等、一定の優良性を一般消費者に認識させるものと考えられます。〉とあるので、それを説明してもらうことになります。このコピーを書いた人は、「とてもおいしい」「自信をもって提供できる」くらいのニュアンスで使っただけで、最上級表現という認識もないかもしれないのだけど、という気持ちをぐっと抑え、定義づけもしくは文言の修正をお願いするのです。
法令やガイドラインを遵守することで読者を守ることはもちろん大切。とはいえ情報の質も落としたくない。可と非のはざまで広告原稿の最適解を求めて、審査担当の小悩みは続きます。