勉強会レポート

第4回「企業への影響」
EYJapan ㈱
ストラテジー・アンド・コンサルティング
シニアマネージャー
松尾 竜聖
㈱ 電通
フューチャークリエーティブリード室
プロジェクトデザイン部
藤井 統吾

法務政策委員会のウェルビーイングについての勉強会、第4回目を開催しました。4回目のテーマは「企業への影響」ということで、企業がウェルビーイングに取り組む4つのキッカケから、企業経営において、どのように影響を与えるかの全体像を理解しました。


企業がウェルビーイングに取り組む4つのきっかけ

企業がウェルビーイングを意識し、取り組みを進めるキッカケの一つ目は、グローバル全体で起こっている人的資本の情報開示の流れです。

その背景としては、投資家が企業の長期的な成長や競争力を評価する際に、従業員のスキル、知識、健康、エンゲージメントなどが重要な要素と認識されるようになったためです。

人的資本は、企業の生産性やイノベーションを支える基盤であり、財務指標だけでは捉えにくいリスクや成長機会を評価するために不可欠な情報であるため投資家サイドからの情報開示の要請に応える形で、人的情報開示の流れがここ数年、世界規模で急速に広がりを見せました。

その人的資本にまつわる取り組みの重要な柱として、近年は従業員のウェルビーイングに対する取り組みや、情報開示が進んできています。

また、ウェルビーイングへの取り組みが企業価値や株価にどのように影響するか等の調査も行われてきています。

きっかけの2つ目は、人材確保(採用・リテンション)の観点です。

Y世代やZ世代を中心に仕事のやりがいや心身の健康、ワークライフバランスを重視するようになり、単なる報酬よりも働きやすい環境や自分らしく幸せに働ける環境を求める層が増えてきていると言われています。

ウェルビーイングに積極的に取り組む企業は、こうした価値観に共感する優秀な人材を引きつけやすく、また従業員が長期的に働き続ける動機付けにもなります。

実際に、既に海外では従業員のウェルビーイングに関する調査が行われており、求職者が企業を選択する際に「同じような業種、待遇であれば、ウェルビーイングに働ける環境がある企業を選ぶ」といった判断軸として活用されています。

きっかけの3つ目は、個々のパフォーマンス発揮の観点です。

ある調査では幸福度が高い従業員は、そうでない人と比較し、創造性が3倍、生産性も31%高いという結果があります。

現在も、生産性や創造性等とウェルビーイングの関係性については研究や調査が進められていますが、多くの調査で相関が認められており、日本においても様々な企業が従業員のウェルビーイングの維持・向上に取り組んでいます。

最後4つ目のきっかけは、リスクの顕在化です。

従業員のウェルビーイング(特に心身)を損ねることによる労務的リスクや、それに付随する経済的損失については取り上げられることは多いですが、それだけでなく、従業員のウェルビーイングを損ねることによって、人為的な不正への関与が増加するなど、経営において様々な場面で影響を及ぼします。

また、コミュニケーションおいても、ステークホルダーのウェルビーイングに配慮できないことによる炎上リスクにも常に晒されています。

このような様々なリスクがある一方で、ウェルビーイングの観点を持ち、従業員のウェルビーイングの維持・向上への取り組みや、ステークホルダーへの配慮など適切に対応することで他社との差別化や付加価値創造など企業価値を高めることもできると言えます。

企業がウェルビーイングに取り組む全体像

上記の4つのきっかけより、ウェルビーイングに取り組む全体像として、人的資本(採用力や個々のパフォーマンス発揮など企業における長期的な競争力の維持・向上)の観点、企業経営における多面的なリスクヘッジの観点において非常に重要と言えます。

また、ステークホルダーへのコミュニケーションにおける価値創造の観点でも極めて重要であり、単にブランド価値の向上に寄与するだけでなく、顧客価値、社会価値、財務的価値の向上など企業価値全体へ影響します。

コミュニケーションにおける新たな軸

終わりに、コミュニケーションにおいて、ステークホルダーのウェルビーイングに配慮することは重要であるものの、配慮するあまりコミュニケーションがまるくなってしまうなど懸念や悩みもあると考えます。

もちろんステークホルダーのウェルビーイングに対する配慮は重要であるものの、その中で最後に問われているのは、企業の姿勢や考え方であることを忘れてはいけません。

企業の理念や姿勢に基づくコミュニケーションであれば、例え炎上したり、何らかのクレームが来たとしても、その理念や姿勢に基づく説明を行うことで、理解を得られたり共感を生むこともあります。

一方で、コミュニケーションの柱(立ち返る場所)にあたるこの理念や姿勢がなくコミュニケーションを行うと、炎上やクレームが来た際に、ただ謝罪や撤回をするだけとなり、ステークホルダーからの理解が得られず、企業ブランドとしての価値の低下につながり危険性もあります。

そのため、これからのコミュニケーションにおける新たな軸として、ステークホルダーのウェルビーイングへの配慮というだけではなく、企業理念や姿勢に基づいたコミュニケーションの意思決定が必要になります。

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