生成AIがもたらす自由とリスク
グループコンプライアンス・リスクマネジメント統括室 局長
藤原 信人
「この画像、●●にそっくりじゃないか?」
納品直前、制作スタッフの一声で会議室が凍りつきました。生成AIを駆使して"西部劇風"の画像をつくった広告案。完成度の高さを誇る一方で、よく見ると、かなり昔の西部劇映画のシーン、それも、映画のポスターに使われているビジュアルに似ているとのこと。たまたま、西部劇映画が好きな年配のスタッフが、そのシーンを覚えていた。比較すると、確かに似ている。クライアントに最終確認のタイミングで、あわてて法務部が駆けつけ、急遽、やり直しに近い修整。現場は混乱しました。
いまや生成AIは、広告クリエイティブの現場にとって欠かせない存在です。その一方で、「AIがどんなデータを学習し、そのアウトプットがどんな権利と関係するか」―私たち自身も、ブラックボックスに足を踏み入れているのかもしれません。
著作権や肖像権のトラブルがAI時代で一気に顕在化し、従来の「素材の権利確認」を徹底してもカバーしきれないグレーゾーンが急速に広がっています。
「まさか、ここまで似るとは」「これは本当にオリジナルといえるのか」・・・懸念は、現場の想像力を超えて襲いかかります。
こうした中で問われるのが、制作部門と法務部門の連携ですが、これまでのように「アイデアは現場、最後に法務」が常態化している組織の危うさを感じています。AIがアイデア出しや素材生成に深く関わるいま、成果物が完成してからの大きな手戻りはコストや納期に大きな影響を及ぼしますので、 初期のプロンプトや着想段階でリスクを見極めることが求められる予感がします。
「では、法務もAIに任せれば解決するのか?」
最新AIに自動チェックを委ねる動きも広がる中で、本当にそれで万全なのでしょうか。AIの判定にもブラックボックスや曖昧さ、現場ごとのニュアンスの違いがつきまといます。「AIが大丈夫といったからOK」―この"過信"が、逆に新種のリスクや現場の油断につながる不安も拭えません。
むしろ求められているのは、AIと人間、制作と法務、それぞれの専門性をいかにシームレスに活かすかという「伴走型」のコラボレーションです。たとえば、プロンプト設計段階から法務部門が参画、クリエイターの法的リテラシーを確認した上でアドバイスをおこなう。リスクと品質のバランスについて、お互いを尊重して対話ができる風通しのよい風土醸成も欠かせないでしょう。そうした"横断的な知恵と連携"が、これからの広告会社の最大の武器となるはずです。
生成AIがもたらす自由とリスク。それを両立させるカギは、組織そのもののアップデートにあるのかもしれません。現場と法務の対話の積み重ねが、次の広告ビジネスの常識になる。いま、私たちはその最前線に立っています。

