
はじめに
先日、広告協会の委員会の皆様に向けて、「生成AIと著作権」をテーマとする勉強会を実施させていただきました。生成AIは、広告・マーケティングの実務に急速に浸透しつつある一方で、法規制や法解釈については、なお流動的な部分が多い分野でもあります。技術や実務の進展が先行し、その後を制度やルールが追いかけている面もあるため、現時点での整理についても、今後変わる可能性があることを前提に理解する必要があります。
もっとも、そのような状況であっても、広告実務に携わる立場として、現時点でどのような論点があり、どこに留意すべきかを整理しておくことには十分な意義があります。特に、生成AIと著作権の関係は、実務上きわめて重要な論点の一つです。加えて、広告の分野では、AIを用いた制作や表示、媒体運用との関係で、著作権にとどまらない留意点も生じています。
本稿では、当日の勉強会でお話しした内容をもとに、既存の法制度を前提として、生成AIと著作権に関する基本的な論点を整理するとともに、近時の広告に関する留意点について述べます。
近時の主要な規制動向
生成AIに関する規制動向については、日本国内でも海外でも、さまざまな議論や制度整備が進んでいます。もっとも、現時点では、それらが統一的なルールとして完全に整理されているわけではなく、既存の法令や解釈を前提として、個別の利用場面ごとに評価していくことが中心となっています。
本稿では個別具体的な制度説明に深入りするのではなく、実務上より直接関係する著作権法上の論点と、広告におけるAI利用の留意点に絞って整理します。
著作権法上の論点
生成AIと著作権の関係を考える際には、開発から生成までのどの段階で問題が生じるかを分けて整理することが重要であり、大きく分けて、
- ①開発・学習段階
- ②生成段階
- ③生成物の利用段階
という三つの局面に沿って考えるのが有益だと考えられます。
まず前提として、著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものをいいます。したがって、事実やデータ、あるいは表現の元となった思想やアイデアそれ自体は、著作物には該当しません。この点は、生成AIの文脈でも変わりません。
また、著作権侵害が成立するかどうかは、一般に、「類似性」と「依拠性」の二つの要件で判断されます。類似性とは、既存著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるかという点であり、依拠性とは、既存著作物に接し、それを自己の作品に用いたといえるかという点です。偶然似てしまったにすぎない、いわゆる独自創作の場合には、依拠性が否定され、著作権侵害は成立しません。
さらに、生成AIとの関係で重要になるのが、著作権法30条の4です。これは、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用、いわゆる非享受利用に関する権利制限規定です。情報解析のための利用は、その典型例として位置づけられます。
開発・学習段階では、第三者の著作物をAIの学習に利用する行為が、原則として複製に該当し得るため、複製権侵害の問題が生じます。他方で、それが情報解析のための利用であれば、著作権法30条の4により適法となる余地があります。ただし、既存の広告画像や広告コピーを学習させ、その表現をほぼそのまま再現するような出力を目的とする場合には、単なる情報解析とはいえず、享受目的が認められる可能性が高くなります。その場合、権利制限規定による正当化は難しくなります。
この点は、AIベンダーによる開発時の学習に限られません。RAGのように、外部データベースから関連情報を検索・参照して回答の精度や最新性を高める仕組みを企業が独自に活用する場合にも、第三者著作物をデータベースに取り込むのであれば、同様の論点が生じ得ます。社内利用であっても安心とは限らず、どのような目的で、どのように使うのかが重要になります。
次に生成段階です。ここでは、プロンプトとして第三者の著作物を入力することが問題になります。このような入力行為も、原則として複製に該当し得ます。特に、他社の広告コピーやビジュアルをそのまま入力し、「これに似た広告を作ってほしい」といった形で指示する場合には、表現の再現を意図した利用と評価されやすく、権利制限規定の適用は難しいと考えられます。このように、学習段階にも増して、生成段階で著作物をプロンプトとして入力する場合には慎重な検討が必要だと考えられます。
さらに、最終的に生成された成果物そのものが、第三者の著作権を侵害するかという問題もあります。この場合は、類似性と依拠性の有無が中心的な論点になります。生成AIの文脈で特徴的なのは、利用者が特定の既存著作物を意識していなかったとしても、学習モデルの中にその著作物が含まれていたことにより、依拠性が推認される可能性がある点です。ここが、生成AI特有の難しさの一つです。
そのため、実務上は、生成物をそのまま利用するのではなく、最終的に人の手で確認することが重要です。勉強会では、
- ①有名作品等への類似チェック、
- ②プロンプトの確認、
- ③生成物をそのまま利用せず人の手で修正・調整を行うこと、
を対応方法の一例として挙げました。もっとも、どこまで修正すれば十分かについて一律の基準があるわけではありません。リスクを完全にゼロにすることは難しいため、リスクを低減させるためには実務上どのような対応をとるべきかという観点で考えることが重要です。
広告におけるAI利用の留意点
広告実務との関係では、AIラベル表示の問題が重要です。まず確認しておきたいのは、現時点では、日本において、AI生成物であることの表示を直接義務付ける一般法があるわけではない、という点です。
その上で、勉強会に先立ってAIラベル表示と景品表示法との関係についてご質問がありましたので、まずはこの点について触れたいと思います。
まず、そもそも景品表示法との関係で問題となるのは、最終的に出来上がった広告表示が、一般消費者に誤認を与えるような不当表示に当たるかどうかであり、その作成途中にAIを用いたかどうかそれ自体が問題になるわけではありません。たとえば、存在しない利用者の体験やレビューをAIで生成し、それを実際の利用者の声であるかのように表示するようなケースでは、AIを使ったということ自体が問題となるのではなく、その結果として事実に反する表示によって誤認を生じさせることが問題になります。
その意味で、AIラベル表示は透明性確保のための手段として意義はありますが、それ自体で景品表示法上の問題が解消されるわけではありません。つまり、AIラベル表示はあくまで透明性確保のための手段であって、日本法上の不法行為責任や景品表示法上の規制と直接的に関連するわけではありません。
次に、同じく事前質問をいただいたAI利用の広告に関する媒体社の責任について触れたいと思います。まず広告主と媒体社との関係は基本的に契約関係として整理されます。そのため、AI利用の申告や表示義務、違反時の対応なども、まずは契約やポリシーにおいてどのように定めるかが基本になります。とはいえ、契約で定めれば何でもできるわけではなく、運用が不合理または恣意的であってはなりません。AIラベル表示に関するポリシーを明記し、違反時の対応として、警告、修正、広告停止、アカウント停止などの段階的な運用を設けた合理的な内容であるべきです。
また責任分担について、媒体社が第三者の権利侵害を認識しながら掲載を継続した場合には、第三者から一定の責任を問われる可能性があります。他方で、広告主と媒体社との契約においては、適法性に関する広告主の表明保証や、違反時の損害賠償に関する取り決めを置くことで、広告主に責任転嫁できるように整理しているケースが一般的です。
おわりに
生成AIをめぐる法的論点は、なお流動的ではありますが、現時点でも、著作権法上の整理や広告実務における留意点として、押さえておくべきポイントはいくつか明確になっています。
著作権の観点では、開発・学習段階、生成段階、生成物の利用段階を分けて考え、既存の著作物の表現を再現することを目的とするような利用を避けることが重要です。また、生成物の最終利用段階では、第三者の著作権を侵害していないかを慎重に確認する必要があります。広告実務の観点では、AIラベル表示それ自体で判断するのではなく、最終的な広告内容が誤認を生じさせるものではないかを検討すること、また、広告主と媒体社との契約やポリシー、校閲手続きについて、合理的な運用体制を整えることが重要です。
生成AIは有用なツールである一方、その利用には一定の法的リスクが伴います。過度に萎縮することなく、かと言って無防備に使うのでもなく、リスクと論点を整理した上で、適切なルールと運用を整えながら活用していくことが求められています。

生成AIと著作権