令和5年度第1回特別講演会開催

(公社)東京広告協会は、令和5年度第1回特別講演会を6月9日に日比谷コンベンションホールにて開催しました。袴田武史氏を招き、「Expand our planet, Expand our future人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す -月探査に挑む民間企業-」と題してお話しいただいた概要をご紹介します。
袴田 武史(はかまだ たけし)(㈱ispace 代表取締役 CEO&Founder)
袴田 武史 氏
プロフィール
子供の頃に観たスターウォーズに魅了され、宇宙開発を志す。ジョージア工科大学で修士号(航空宇宙工学)を取得。大学院時代は次世代航空宇宙システムの概念設計に携わる。外資系経営コンサルティングファーム勤務を経て2010年より史上初の民間月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参加する日本チーム「HAKUTO」を率いた。同時に、運営母体の組織を株式会社ispaceに変更する。現在は民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」を主導しながら月面輸送を主とした民間宇宙ビジネスを推進中。宇宙資源を利用可能にすることで、人類が宇宙に生活圏を築き、地球と月の間に持続可能なエコシステムの構築を目指し挑戦を続けている。
Expand our planet, Expand our future
人類の生活圏を宇宙に広げ、持続性のある世界を目指す -月探査に挑む民間企業-

月面着陸を目指したMission 1

2022年12月に営利企業として初めて月着陸船の打ち上げを成功させたispace。本打ち上げから月着陸後の運用までの挑戦をMission1とし、その中で10段階の目標が設定されていた。2023年4月26日に予定していた9段階目となる着陸は成功しなかったが、8段階までが成功したことで多くの知見とフライトデータを得ることができた。これは今後の打ち上げ予定のMission2,3にも生かすことができる。また官邸をはじめ多くの関係者や海外からも激励のメッセージを受けた。

なぜ宇宙開発事業に関心を持ったのか?

子供のころからスターウォーズが好きだったところから始まり、大学で航空宇宙工学を学ぶ一方、宇宙船を設計したとして、「誰が買うのだろう?」「誰がお金を出すのか?」という疑問がわき、技術者としてよりも経済合理性を考えるようになった。ジョージア工科大学院に在学中、「民間で成功させるには技術だけでなく資本と経営が必要。日本の民間宇宙業界に優れた技術者はいるが経営と資本がない」ことを知った。

宇宙産業の今、月面市場の拡大

現在、宇宙産業は、拡大期・変革期である。①技術開発から利用へと進化、②ハードウェアからシステムへ、③速いサイクルでの事業展開が求められている(イーロン・マスク氏のような新しい宇宙ビジネスプレイヤーの登場)などの点で変化し、市場が拡大している。試算によると、2036-2040年にかけて月面輸送市場が飛躍的に大きく拡大すると予測されている。実際に、すでに月面長期滞在を目指した国内外の多くのプレイヤーが参入している。

「地球と月を1つにするエコシステム」 ~Moon Valley 2040 構想~

ispaceには人間が宇宙で生きていくための生活圏を築きたいという目標があるが、人間が宇宙で豊かな生活を送れるようになるためには、経済が重要と考えている。経済を動かす原動力として、特に月に存在する水の活用に注目している。2040年以降には1,000人くらいの人間が月に住み、働き、経済を回し、さらには10,000人くらいの人間が月と地球を行き来する世界になるというビジョンを掲げている。(Moon Valley 2040構想)

多様な顧客ニーズに応えるために

ビジョン実現に向けた活動を行うためにも事業としての成立が求められる。現在はペイロードサービス(顧客の荷物を預かり月面まで輸送するサービス)、データサービス(ispaceのペイロードを使い顧客が必要なデータを獲得)、パートナーシップサービス(ispaceのランダーやローバーにスポンサーロゴを掲載および協業の権利)などがビジネスの中核となっている。2025年のMission3以降は、より高頻度な月輸送システムを構築し、同タイミングに複数のミッションを行うことで時間と予算を短縮し、ビジネスモデルの継続を担保していきたい。

Mission2(2024)、Mission3(2025)へ

2024年に月面着陸と月面探査を行うMission2が予定されており、2025年にはNASAのCLIPS(商業月面輸送サービス)として2機のリレー衛星を月周周回軌道に投入し、一連の科学実験機器を含むペイロードを月面に輸送するMission3を予定している。

グローバルな連携で多様な顧客パイプラインを獲得

事業所も日本、アメリカ、ルクセンブルクに置くなどグローバルな事業基盤を設けており、累計10ヶ国約20顧客を獲得している。個々の技術は既存のものも活用しつつ、グローバルに強固な協力関係をもとに、最適な技術と経験を選択し活用している。今後、月探査で世界に貢献できるような企業になっていきたい。


その後、事前に参加者から寄せられた多くの質問から、「協力者の集め方や資金調達など、周りの人を巻き込むために工夫されたことはありますか?」「ビジネスを進める中での信念や軸、ご自身の考え方を教えていただけますか?」「なぜ大学院卒業後に外資系経営コンサルティングファームに進んだのですか?」についてお答えいただいた。

Mission1のランダーが月面上空から撮影した地球
Mission1のランダーが月面上空から撮影した地球

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