“モノが纏う空気作り”に魅せられて。
「学生起業」との出会いが、すべての始まりでした。
……大学時代にマーケティングに興味を持つようになって、それが現在の道へと繋がったそうですね。
私は理工学部の理系学生だったのですが、当時とても流行っていた「学生起業」に出会い、在学中から仲間と一緒に広告会社から引き受けた調査やイベント業務、インタビューの取りまとめなどの仕事をしていました。そんな中で広告会社の人の話を聞いているうちに、マーケティングって面白いと思うようになったのです。“モノそのもの”ではなく、“モノが纏う空気とかブランド”のようなものを作ってお客様に届ける仕組みを作る、ということに徐々に惹きつけられていきました。理系学生はどちらかというと“モノ作り”に没頭するタイプが多いのですが、私の場合は“モノが纏う空気作り”に興味を持ったことが、広告会社を志望するきっかけになったというわけです。
電通という会社は、学生の私からすると、広告マーケティングや商品開発、スポーツマネジメントやイベントなど、なんだか得体の知れない仕事を黒子としていろいろやっているらしいぞというイメージで、それが魅力的でした。さらに、当時電通は「Communications Excellence DENTSU」をドメインとし、社員の人たちはその頭文字「CED」がロゴ化された社章をつけていました。それもなんだかカッコよくて、新しいなぁ、と思って(笑)。理系の仲間は大学院に進んだり、化学系の企業に就職する人がほとんどで、結果的に私がいた学科の中で、いわゆる文系就職をしたのは、私一人でした。
……さまざまなご経験をしてきたと思いますが、忘れられないお仕事やエピソードなどはありますか。
弊社の営業は、比較的長く同じクライアントを担当してベテランになっていくキャリアのタイプと、さまざまな業種・業態を経験していくタイプがいますが、私は後者です。これまで多様な業種や新規の顧客、そして社内改革プロジェクトなどを幅広く経験してきました。
たとえば、ある自動車メーカー様のプロジェクトでは、3年間にわたって「販売店の新CI開発・変更」に携わりました。全国約3500の販売店に掲げる新しいロゴのデザイン開発から取り付けまでを担当しました。最終的に施工の現場にも立ち会うので、チームでお揃いのヘルメットを製作し、それをかぶって施工を見届けるという仕事に関わったのは、とてもいい経験でしたし、今も強く印象に残っています。
飲料メーカー様の新商品開発・ローンチプロジェクトを担当したこともありました。この時は、新しい飲料の機能性や味の精査、商品のネーミング、ボトルやロゴのイメージも一緒に作り上げて市場に出す、という仕事に携わりました。現在はその商品の発売から10年以上経っていますが、世の中にしっかりと認知されて、今でも売れ続けているので、とても誇らしいことだと思っています。
また、金融グループのコーポレートブランディングを担当したこともありました。これは文字どおり、銀行・証券・信託・カード会社など、もともと出自の違う企業が統合して、ひとつの企業グループとしてのブランディングのお手伝いでしたので、やるべきことも非常に多くあった分、やりがいのある仕事でした。
そのように心に残る経験がいくつかありますが、成功体験よりも、失敗したり苦労した経験の方が、よりはっきりと覚えています。あるイベントの本番で配布した販促物に不備があり、予期せぬトラブル対応などもありました。他にも様々な経験があります。その失敗と反省が強く心に残っていて、いまの自分を育ててくれたと思います。

複雑化する事業環境に対応できる、統合的なソリューションを提供したい。
……電通は、従来よりさらに課題の本質を見極め、最適なアプローチを実践することを目指してIGP(=Integrated Growth Partner)というビジョンを掲げ、事業変革されようとしていますが、具体的にはどのようなことなのか、教えてください。
私たちは今、「顧客と社会にとっての真のIGP(=Integrated Growth Partner)」として、複雑化・高度化する企業課題から本質的な課題を発見し、これを解決に導くパートナーとなることを目指しています。そのために、統合的なソリューションを提供するチャレンジをしており、次の4つの事業領域でサービスを展開しています。
BX(Business Transformation:事業全体の変革)
CX(Customer Experience Transformation:お客様体験の変革)
DX(Digital Transformation:マーケティング基盤の変革)

社会を取り巻く環境は先が読み辛くなってきて、クライアントの事業環境は複雑化しています。加えて、生活者の志向や価値観も絶えず変化しています。そんな中で、これまで通りの広告ソリューションでの対応では、クライアントのニーズに十分に応えることはできませんし、広告だけで解決できるクライアントの課題が圧倒的に少なくなっていることを日々、実感しています。
そこで私たちは、クライアントの事業成長に貢献し、社会と生活者に活気や豊かさをご提供していくために、より幅広い事業領域でのサービスのご提供を始めております。すでにこれまでの事業変革を通じて、広告以外の領域の比率は全体の約4割に及んでいます。その成長基調を牽引しているのが、BX/DX領域であり、特にBX領域については、2021年から2024年にかけて4年連続で二桁成長になっています。
また、2024年から代表取締役 社長執行役員に就任した佐野傑のもとで、真のIGPを目指すとともに、人財の成長や開かれた企業風土を再構築しようということで、社を挙げてさまざまな取り組みを行っています。
例えば、2024年11月にグループ規模で初めて開催した「オフィスカミングデー」もその一環です。これは「おもてなし」をテーマに、会社から従業員とその大切な方へ、そして従業員からその大切な方へ、感謝を伝える機会として実施したもので、同じ日に東京・関西・中部の3つのオフィスで開催しました。従業員とそれぞれのご家族やパートナー、恋人など、約3300人の「大切な人」が集まり、それぞれが感謝の思いを伝え、参加者にはオーケストラの生演奏や体験イベントなどを楽しんでいただきました。

また、㈱電通を含むdentsu Japan全体のアクションとして、国際女性デー(IWD=International Women's Day)に合わせて、女性社員を中心に働き方や女性の活躍について幅広いテーマでディスカッションを行うなどの特別イベントも開催していたり、アジア最大級のLGBTQ+イベントである「東京レインボープライド2024」には8年連続で参加、2024年は「プライドアクション展」を展開しました。その日から実践できるLGBTQ+支援アクションとして、「コトバ」の選び方、「コミュニケーション」に関するアクション、社会の変革を促す「チェンジ」のアクションなどをパネルで楽しく紹介し、2日間で延べ3000人を超える方々にご来場いただきました。さらに、クリエイティブ部門では、社員が自発的にDEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包摂性)を推進するべく、取り組みを進めています。たとえば現在の部長(社内呼称はGM。ゼネラル・マネージャーの略称)が自分と異なる性別や年代の社員を副GMに任命し、二人で部員の育成や組織運営を行うペアGM制度「ミライGM」などもその一つです。さらに、社長の佐野が自ら、社内の全部署に実際に訪問して社員の声を聞くという、「オープントーク」も行っています。
このような取り組みの結果として、社内における会社と従業員との関係性を示すエンゲージメントスコアは向上しましたし、社外では、「働きがいのある企業ランキング2025」(OpenWork)で1位になったことに加え、「管理職が評価する企業ランキング」 (OpenWork「働きがい研究所」)で3位(2024年9月)、女性活躍推進企業として「えるぼし認定」最高位の3つ星を取得(2025年2月)、男性従業員の育休取得率が103.1%、平均取得日数が67.1日へと向上(2025年2月)など、数字にも着実に変化が現れてきています。
私自身としても、非常に開かれた、誰もが働きやすい職場、かつ個人やチームの成長が実感できる企業風土へと進化しながら、しっかりと求心力を取り戻せているという実感がありますし、それはとてもいいことだと思っています。
いかに自分が価値を生んでいくか、を考えて行動する。
……吉田さんご自身がお仕事を続けてきているなかで、大切にしていることは、どんなことでしょうか?
私はいかに「価値を生むか」を考えることを、特に大事にしています。我々の仕事はクライアントの課題を洞察し、それと向き合いながら、社内外の専門領域のソリューションを総合プロデュースする仕事です。言ってみればその両者の間にいるポジションなので、油断すると、不要になってしまうポジションなんです(笑)。いかに自分が価値を生んでいくかということを意識して、行動しないと、ビジネスプロデュース職がいる意味がなくなっていくと思うんですね。
あるいは、自分自身はあまり興味がなかったり、得意ではないプロジェクトを担当することもあるかもしれません。それでもやっぱり自分がいる意味とか価値を何とかしてひとつひとつ出していくことが大事なのではないかと思います。
ビジネスプロデューサーとして、課題を正確に捉える、論点をぶらさない、効果性と効率性のバランス、空気感を察知するなど、価値が生めるポイントとして意識しています。いかに全方位に敏感になれるかどうかが真骨頂で、ひとつひとつ小さいことの積み重ねが、プロジェクトに関わるすべての方の達成感と満足感につながるのではないかと思います。
……お忙しい中で、オフの日にはどんな過ごし方をしていらっしゃるのでしょうか?
趣味というかリフレッシュ術というか、好きでやっていることがいくつかあります。まず、うちは女系家族なので、その中で「オスの愛犬『ラテ』と遊ぶこと」ですね。犬種はジャック・ラッセル・テリアです。

それから「ほろ酔いで作るオトコメシ」。じつは昔から料理が好きで、大学時代に調理師免許を取得しておりまして。その日にある材料で何かを作る、というのが得意です。昔はよく寸胴鍋を使って、スープをとるところからラーメンを作っていました。ラーメンといえば「『ラーメン二郎』巡り」も大好きです。そのほかには「50歳で始めた、乗れないサーフィン」とか「5年ほど全くスコアが上がらない、エンジョイゴルフ」など、いろんなことをやっているのが好き、ですね。

ゴルフは娘さんとラウンドすることも
とはいえコロナが5類になって以降は週末にお得意さま関連のイベントなども復活してきて、外出も多くなってきたので、完全にオフと呼べる日は少なくなっているかもしれませんが。
……オンもオフも充実していらっしゃるご様子ですね(笑)。
最後に、広告の仕事に関わっている若い方々にメッセージやアドバイスをいただけますか。
私からは3つのことをお伝えしたいと思います。
まず第一は「とにかく、早く動く」です。早く動くだけで褒められます(笑)。8割がたのことは、早く動くとうまくいくものです。
次に「とにかく、クライアント愛にあふれた日常を心がける」。ちょっと営業っぽい言葉ですが、営業の部署ではなくても、クライアントさんの製品を使う、見る、飾る、というようなことは我々の業界の基本ではないかと思いますね。
そして、「とにかく、あらゆる領域/業種の、たくさんの事例をインプットする」。たとえば自分が向き合っているお得意さまの課題やご要望などを聞いた時に、じゃあ他業種で似たような課題があるだろうか、とか、同業種の競合ではどんな成功事例があるだろうか、というような引き出しがあればあるほど、アイディアが作っていけると思います。私の場合はいろんなお得意さまの担当経験があったのでそれをすごく実感していますし、事例がどれだけ頭に入っているのか、というのは、広告人にとってはとても大事な気がします。小規模な予算のお仕事の依頼があった時には、“このくらいの予算感で何か上手くいった事例はあったかな”と考えてみて、思い当たる件があればやっぱり参考になると思うんですね。そのような事例がどれだけ自分の中にストックできているか、というのはとても大事だと思っています。

広告業界のベテランである私たちは、この業界に入ってこられた若い方たちが期待に満ちて成長実感をしっかり感じてもらえるようにサポートして、自信を持って仕事に全力投球できる環境づくりをしていきたいと思います。