活動レポート

【令和2年度第1回 特別講演会】
渋谷区長 長谷部氏が登壇

『「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」~実現に向けたまちづくり~』

令和2年度第1回特別講演会を、新型コロナウイルスの影響により録画配信形式で8月28日より31日までWEB公開した。
『「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」~実現に向けたまちづくり~』を演題に、長谷部 健氏(渋谷区長)を招いた。会員社・一般から約250名が聴講した。

渋谷区が目指す姿、多様な取り組み

 「渋谷区」といえば主に渋谷駅周辺を想像されると思うが、広尾・恵比寿、幡ヶ谷・笹塚・本町などもエリアで、約23万人が居住している。
演題にもなっている「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という言葉は、渋谷区基本構想からとっている。「基本構想」とは地方自治体にとって政策の最上位概念にあたるもので、これをもとにすべての政策を策定している。私の区長就任時には異なるものだったため、オリンピック後の街づくりの指針となるものを策定すべく、1年ほどかけて取り組んだ。特にこだわったのは「言葉」が持つ力を生かすことで、コピーライターの方にも加わってもらい、わかりやすく、かみ砕いた言葉にすることを大切にしている。渋谷の子供たちの未来を示すものでもあるので、ピクチャーブックも制作したが、内容は骨太のものと自負している。ぜひ皆様にも手に取ってみていただきたい。


オンライン配信形式で開催

 渋谷の街は多様性に満ちており、それを強くしていくには、地域のコミュニティの力を強くしていくことが何よりも大切と考えている。町会・商店街・PTAなども高齢化の課題があるので、これからの姿としては例えばSNSを通じたコミュニティなども含めて、多様なコミュニティが成長していくことが街の力になると考えている。
当然ながら渋谷区も住民税収入をもとに運営しているので、住民サービスが最も大きな使命となる。ただ、それだけに頼っていてはまちづくりに限界があるので、渋谷に集う多様な企業や人材と、お互いのリソースをかけあって充実したサービスを作っていきたい。

まずは今後の取り組みとして「ササハタハツプロジェクト」をご紹介したい。
笹塚・幡ヶ谷・初台エリアにある玉川上水の旧水路緑道の再整備を進めており、地域コミュニティを強めていくために、「農園」というコンセプトを採用している。多様な栽培方法を導入してエリアごとに色とりどりの野菜や果物があふれる、多様な活動が行われるエリアにしたいと考えている。
例えばニューヨークの「ハイライン」は自主管理・自主運営されているすばらしいエリアだが、それに負けないように民間企業やスタートアップとも連携して、緑のネットワークを街に広げていきたい。

次に、「渋谷アロープロジェクト」について。
渋谷は夜間人口23万人に対して昼間人口が3倍近くいると言われているが、彼らが日中どこに避難したらよいか、どのように情報発信するか、というのが大きな課題としてある。初めて街を訪れた方、働いている方に避難場所を渋谷区らしく伝えられないかと考え、パブリックアートを採用した。パブリックアートに「矢印」のモチーフを埋めこみ、それが一時退避場所を向いている、というもの。
税収の原資は住民税にあるが、来街者からも資金提供をいただけないか、という視点から本事業ではスポンサー様を募集しているので、ぜひお声がけいただきたい。

次に、「MIYASHITA PARK」について。
不動産企業様に加わっていただき渋谷区立宮下公園をリニューアルし、商業施設、公園、ホテルが入る複合施設となった。区としては家賃収入を得る仕組みで、まちづくりの資金として住民税収以外を生み出す仕組みができ、地域住民にとっても来街者が訪れることでひいては自分たちの生活環境がよくなる、という関係性をつくれるようになった。ぜひ企業プロモーションの場所としてのご要望などもおっしゃっていただければと思う。

シブヤ・ソーシャル・アクションパートナー」について。
これは区内に拠点を置く企業や大学等と区が協働して地域の社会的課題を解決していくために締結する公民連携制度で、企業のリソースと行政が持つ力を掛け合わせてシナジーを生み出していきたいというもの。区に集う多様な人材を活用していきたいという狙いがある。
これによって生まれた事例としては、LINE様との取り組みがある。従来、区が区民とコミュニケーションを取るには区報とホームページ等しか媒体がなかった。そこで子育て世帯に対して区からの情報発信をLINEを通じて行うようにしたもので、例えば翌月の予防接種のご案内をLINEでリマインドしたり、子育てイベントの地域情報を送ったりすることができる。おかげさまで非常に好評で、区内ほとんどの子育て世帯が登録してくれるまでに成長した。これを行政がゼロから構築するのは非常に難しいことだが、連携によってうまくいった渋谷区モデルとして、企業様にとってもセールスにつながったりと、メリットを提供できるものと考えている。
渋谷区との協業に興味を持っていただけたらぜひお問い合わせしていただきたい。

また、先日スタートアップエコシステムの拠点都市として「東京都」が選定された。その中でも中心に渋谷がいるはず、と自負しており、東京都の指定をふまえて渋谷もさらにアクセルを踏んでいきたい。
特に今は新型コロナウイルスの影響の中で、この問題に対して区と協業することによるシナジーが大きい企業様を優先して、取り組んでいる。
例えば、現在キックボードの公道走行は許可されていないが、渋谷エリアのニーズとしてはササハタハツエリアと渋谷駅の交通の便が悪いという課題がある。そこをそういったニューモビリティが補完してくれるのではないかと考え、協力してテストを行っていくことを考えている。
また、最近は福祉や教育分野に取り組むスタートアップ企業がふえてきているのも大変ありがたい。
教育分野では渋谷区では3年前から全児童にタブレットを配布しており、それを活用して教育分野でチャレンジしたい企業を受け入れている。かつては子供にタブレットを持たせることについて反対意見もあり、端末選定なども非常に慎重にスタートした経緯があった。しかし、実際に始まってみればデジタルに強い区民からのポジティブな意見もたくさんいただき、この9月にはより薄くて軽い端末をお配りすることもできた。
教員側にもタブレットを使った教育について抵抗感もあったが、コロナを通じて一気に対応が進んだ。デジタル分野が得意な学校にはどんどんと取り組みを進めてもらい、ナレッジを共有しながら進めていきたい。
現在、どの企業様でも子供達に向けた教育に力をいれていらっしゃるので、渋谷区と一緒に開発することで、渋谷モデルとして活用していってもらえればと思っている。
福祉分野では、高齢者の見守りとして従来から民生委員の仕組みがあるが、委員の方も高年齢化しているという課題がある。そこで、一定の年齢を超えた方にはスマートフォンをお配りすることも現在検討している。これによって、高齢者のデジタルデバイド問題の解消を目指し、ゆくゆくは防災情報の発信などもできるようになるのではないか。

最後に、事前に受講者様からいただいた質問にお答えしたい。
Q.コロナ禍において、都市がコロナ以前に戻るのではなく、より良い姿になるためには何が重要か?
私は、やはり「デジタルの活用」だと思っている。デジタル化によって業務がスリムになり、直接区役所に来庁しなくても必要なものが手に入れられるようになるはず。これによって、現在窓口業務に従事している職員を、より人材を必要としている福祉分野などに回すことができる。現在多くの拠点がある出張所も、窓口業務という枠を超えて、地域コミュニティを支えるためのコンシェルジュのようなサポートができる。そういった、非来庁型のスタイルへの投資を進めていきたい。

区長として、「ぜひ渋谷区に住んでください」というのはとても大きなメッセージとしてぜひお伝えしたいが、そもそも渋谷区が「いいね」と言ってもらえているのは、住民以外にもとても多くの昼間人口の方たちがいてくださるから。例えば原宿はファッションの聖地と言われているが、そこで働く人や、好きで遊びに来てくれる人たちがいるからこそ、そう言ってもらえている。これは行政だけで作ったものではない。
そして戦後に発展した若い街だからこそ、住民の皆さんも自分たちが育ててきた街という想いを持ってくださっていて、新しい住民とのコミュニケーションによって、コミュニティが育っている。
そういう方たち皆様の力をいただいて、渋谷の街をこれからさらに成長させていきたい。
本日はありがとうございました。